リーマンショック以降の世界金融の動向

リーマン・ショック以降の景気刺激策はほとんど無意味

2008年10月にワシントンで開かれた世界銀行・国際通貨基金(TMF)合同年次総会は、「自分たちの知る世界の終焉が近い」という無力感に包まれているかのようだった。

 

その1ヵ月ほど前には、リーマン・ブラザーズが破産法適用を申請して倒産。メリルリンチがバンク・オブ・アメリカに買収されるという衝撃的出来事が続いた。市場では、次は伝統と実績を誇るモルガン・スタンレーが営業を停止するという噂でもちきりだった。モルガン・スタンレー主催パーティへの招待状を受け取っていた関係者たちは予定に変更がないかどうかを大あわてで調べた。その日、誰もが、噂が事実であれば名門投資銀行の「通夜」に備えなければいけないと考えていた。米国で発生したサブプライム危機は、世界の金融市場をまひ状態に陥れた。

 

それから3年を経て何か変わったのだろうか。少なくとも「当時ほどは悪くはない」状況とはいえるのではないか(「そうでもない」という意見もあるだろうが)。いずれにしても、今、いえることはせいぜいそこまでだ。

 

この問、史上最大の政府の介入と想像を超える規模の景気刺激策が実施された。約1世紀ぶりの世界不況も経験した(いまだに不況の渦中にあるのかもしれない)。金融健全化のために金融システムの抜本的改革も打ち出された。実に多くの対策が導入された3年間だった。

 

しかし、現実には残念ながら、ほとんど何も達成できていない、サブプライム危機は、先進経済圏が抱える本当の問題、つまり巨額な財政赤字の問題が表面化する前ぶれだった。緊急国際会議が次々と開催され、多くの緊急対策が発表されたが、巨額債務の問題解決への効果的な解決策は皆無のまま今に至っている。

 

債務問題への対応は「モグラたたき」のような感じになっている。歳出超過(財政赤字)を何十年も続けてきた各国政府は、金融危機後、金融機関救済と不況脱出を理由に新たに巨額の債務を積み増した。

 

世界、とくに先進経済圏は歴史的な低金利時代を迎えているものの、各国政府は公的債務の返済に四苦八苦している。個々の国で対処していたら、多数の国がすでにデフォルト債務不履行)に陥っていたはずだ。国際金融の性格上は、一国のデフォルトの影響はその国だけにとどまらず、世界に大きな影響を及ぼす。つまり、財務問題への対処では国際協調が不可欠である。

 

世界の製造業の生産高は滅少し、多くの国が成長率予測を何度も下方修正している。世界の成長センターであるアジアの景気も減速しつつある。一方でインフレ懸念も強まる傾向にある。金融機関は自己資本増強に躍起だ。

 

世界が今、直面している状況は、リーマン・ショック当時の硬化症とは違うようだ。現在の世界経済を診断すると「緩急な痛みを伴う、回復の見当がつかない」症状ということになる。時折、改善の兆しが現われるものの、それもすぐに新たなパニックの発作にかき消されることを繰り返している。

 

過去3年間に景気の先行きについて日本の梅雨時の晴れ問のように楽観論が何度か台頭したが、その前提が問違っていた。結局、真の景気回復は起きていない。金融市場は公的支援に支えられたままだ。多くの国は他国の支援を生命維持装置として生き延びているにすぎない。

 

現状は以上述べたとおりである。打開策はないのだろうか。欧州は2010年春以来、ソブリン債務危機を辛うじて切り抜け続けている。米国債のテクニカルデフォルトをめぐる米与野党間のギリギリの攻防にはまったくうんざりさせられた。国債の格付け引き下げの基準は、スタンダード・アンド・ファース(S&P)が米国債の格付けを引き下げるずっと前から確定している。2011年7月上旬から8月上旬にかけて株価が米国(S&P500)とロンドン(FTSE)でほぼ18‰ ドイツ(DAX)で28%も下落したが、米国債格付けの引き下げはその前に相場に織り込まれていた。

 

市場参加者が最近懸念を抱いているのは、景気の二番底入りの可能性である。ユーロマネーが主要エコノミストたちを対象に8月時点で調査をしたところ、2012年に先進諸国の景気が二番底に陥る可能性を30%から40%とみる意見が多数を占めた。2011年初めの同様の調査では、その可能性は10%ないしそれ以下というのが大勢だった。

 

8月は金融機関の経済成長予測の下方修正が相次いだ。モルガン・スタンレーは、前回の見通しでは米国、ユーロ圏、英国、日本などの主要先進10力国(G10)の平均成長率が2011年は1.9%、2012年は2.5%と予測していたが、それを2011年、2012年とも1.5%に引き下げ、米国とユーロ圏の景気が今後半年から1年の間に「リセッション」(景気後退パこ近い危険水域で推移すると警告した。

 

モルガン・スタンレーでは、明るい要素として、相対的に好調な企業収益と低いインフレ率が家計の実質収入にもたらすプラス効果を挙げている。2012年の先進諸国の平均成長率が1.5%という予測は新たなコンセンサスとなりつつある。リセッションの可能性までは踏み込んでいない予測のなかにも、金融市場の低迷が実体経済に及ぼす連鎖反応を懸念して、悲観的な見通しとなったものがある。

 

ソシエテ・ジェネラルの予測は、他のほとんどの金融機関同様にリセッションの可能性には言及していないものの、株価が10%下落すれば今後1年間の成長率が米国で0.8%、欧州で0.3%、それぞれ削がれるとしている。ソシエテ・ジェネラルでは、米国と欧州の経済は、飛行機に例えれば、カタカタと音を立てながら失速速度寸前で飛んでいる状態にあるという。複数のスタビライザー(飛行安定板)が機能しなくなれば、墜落する危険がある。墜落を防ぐ条件として、ソシエテ・ジェネラルは、@ユーロ圏ソブリン危機の悪化の回避、Aアジア経済のハードランディングの回避、B原油価格の安値安定、@中央銀行による金融緩和策の継続、を挙げた。

 

ソブリン危機の渦中にある先進国は、巨額の財政赤字が続く厳しい状況下にあり、債務残高の対国内総生産(GDP)比は高まる一方である。しかも、今回は打つ手は残っていない。国債格付けの低下を食い止め、債券市場へのアクセスを確保するために、渋々と緊縮政策を推し進める欧州諸国のいずれにも、確実な成長戦略を打ち出す力は明らかにない。

 

先進各国の政策金利が低めに維持されることに疑問の余地はないが、中央銀行に他にできることがあるのかは不透明だ。2010年8月、米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティ連銀主催年次シンポジウムで、ペン・バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は、FRBによる金融の量的緩和策の第2弾(QE2)を打ち出した。 2011年の同シンポジウムでは新しい政策には触れずじまいだった。金融市場は量的緩和に期待を寄せるが、米国では失業率が高止まりしたままで、景況感も依然として弱い。これでは、QE2が米経済にとって実際にどこまで効果があったのかという疑問がわく。

 

3年前、世界が1930年代のような不況に陥り始めるなかで開催された2008年の世界銀行・IMF総会では、各国の政府と中央銀行は対応策として積極財政に踏み切ることで合意した。具体的には、経営危機に陥った金融機関や企業への公的資金の注入や、健全な金融機関への政府の信用保証の付与という措置が含まれていた。政府の対策を中央銀行は金利引き下げと量的緩和という形で支援した。

 

しかし、これらの対策は、過剰な借金依存に陥っていた経済全体、金融システム、金融市場に再建するための時間を与える一時しのぎの措置だった。3年後の現在までに、そうした再建は順当に実現できたといえるのだろうか。あるいは、過剰な借金依存の流れの中心が高格付けの国債部門にシフトしてしまったのだろうか。実際に、国債の格付けは引き下げられる傾向にあり、その影響が民間の金融機関と経済全体に及ぼうとしている。

日経平均は昨日までの上昇によってテクニカルポイントに近づいている。一目均衡表の雲は8700-8750円辺りに位置しており、来週にはねじれを起こす。強弱感は対立しやすいところであるが、これを捉えてくるようだと、年末高への期待感が一層高まることになりそうだ。週末要因から利益確定の流れに向かいやすいが、今回の日米欧の世界主要6中銀によるドル資金供給での協調策によって、リスク資産への再投資の動きも次第に強まるとみておきたい。ヘッジファンドの決算に絡んだ売りも一巡しているとみられ、利益確定で上げ一服の局面では押し目狙いを意識したいところ。為替相場(FX)では一段のドル高も予想される。